近年、企業のデジタル化を推進する手法として注目されているのが「市民開発（Citizen Development）」という考え方です。
これは、IT部門や外部業者だけに頼らず、現場の業務担当者が主導して業務アプリやワークフローを構築・改善していく取り組みを指します。たとえば、Excelで手作業していた集計業務をアプリ化したり、紙で行っていた申請業務をWebフォームに切り替えたりと、現場の“ちょっとした不便”を自ら解消していく方法です。
これまで「ITに詳しくないから無理」と諦められていたような改善も、現在ではノーコード／ローコードと呼ばれる開発ツールの進化によって、専門的なプログラミング知識がなくても実現可能になっています。
市民開発のメリット｜“現場主導”が生み出す3つの成果
市民開発には、単なる「コスト削減」にとどまらない、組織全体の変革に波及するメリットがあります。
スピード：業務改善がすぐに実行できる
市民開発の最大の魅力は、改善のスピード感です。
現場の担当者が自分でアプリや業務フローを改善できるため、要件のすり合わせや仕様の調整に長時間を要することなく、気づいたその日に改善を始められるという利点があります。
たとえば、毎日30分かかっていた集計作業をGoogle スプレッドシートで自動化すれば、年間で100時間以上の業務削減が可能になります。こうした「すぐにできる・すぐ効果が出る」改善の積み重ねが、全社的な業務効率の底上げにつながります。
コスト：開発予算を抑えられる
市民開発では、外注費が不要になるため、初期費用・保守費用を大幅に削減できます。
しかも、既存のGoogle WorkspaceやMicrosoft 365といったオフィス環境をそのまま活用できるため、**追加投資を最小限に抑えた“スモールDX”**を実現できます。
IT予算に限りがある中小企業にとっては、「現場に必要なものを、必要な分だけ作る」というアプローチは、費用対効果の高い選択肢です。
柔軟性：変化への対応力が高い
制度変更、業務ルールの改定、新規事業の立ち上げなど、企業を取り巻く環境は常に変化しています。
市民開発なら、業務担当者自らがその変化に応じてシステムを即座に更新できるため、常に現場の実情にマッチした運用が可能です。
たとえば、稟議フローの承認者が変更になった場合、フォームの設定を1クリックで変更できるなど、柔軟な業務対応力が確保されることは、組織全体の俊敏性にもつながります。
市民開発の進め方｜ITに詳しくなくてもできる導入ステップ
市民開発は、一部の大企業やIT企業だけのものではありません。中小企業や自治体、医療福祉・建設現場など、あらゆる業界・業種で実践可能です。
ステップ1：業務の棚卸と課題の洗い出し
まずは自社内の業務を棚卸しし、「非効率」「紙・手書き」「属人化」「転記ミス」といったキーワードに該当する業務を抽出します。とくに毎日・毎週繰り返される定型業務は、改善のインパクトが大きく、市民開発の対象として適しています。
ステップ2：小規模で始める業務を選定
次に、日報作成・勤怠申請・備品申請・在庫管理など、業務範囲が限定されていて影響範囲が少ない業務を選びましょう。小さな成功体験を積み上げていくことで、他部署への展開や社内文化としての定着がしやすくなります。
ステップ3：ツール選定と運用開始
市民開発を支えるツールには以下のような種類があります：
- ノーコードツール（Googleフォーム、AppSheet、Power Appsなど）
- ローコードツール（GeneXus、OutSystems、Kintoneなど）
自社のITリテラシーや現場の業務レベルに合ったツールを選ぶことが、継続的な活用のカギとなります。ツール導入後は、まずはプロトタイプを作って試験的に使ってみる、という“トライアル&エラー型”の進め方が効果的です。
ウイングが支援する市民開発のカタチ
株式会社ウイングでは、中小企業の皆様が自社内でDXを推進できるよう、市民開発の導入支援を提供しています。
たとえば、Googleフォームやスプレッドシート、AppSheetなどのGoogle Workspaceツールを活用した現場主導の業務アプリ構築支援に取り組んでおり、非エンジニアの方でも短期間で導入・活用できるようにサポートを行っています。
また、GeneXusを活用した本格的な業務システムの構築支援にも対応しており、要件定義から開発、運用までを一貫して支援可能です。
さらに、現場社員向けの研修・技術支援やテンプレート提供を通じて、内製化や継続的な改善体制の構築もサポートします。
“小さく始めて大きく育てる”市民開発
DXと聞くと、「大規模な基幹システム刷新」「全社横断の大改革」といったイメージを持たれがちですが、実際にはそうした取り組みはコスト・時間・リスクが非常に大きく、成功率も低いのが現実です。
その点、市民開発は現場レベルの課題を起点に、小さく・スピーディに改善を始められるのが特徴です。そしてその成功体験が社内に共有されることで、徐々に他部署にも波及し、最終的には全社的なデジタル化の基盤づくりにつながります。
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