なぜ今、総務DXが注目されているのか?
近年、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉は多くの企業で聞かれるようになりました。中でも総務部門は、紙ベースの業務や手作業が根強く残る領域であり、業務効率化の余地が大きいため、DXの対象として注目されています。
しかし、「とりあえずITツールを導入したけれど、うまく活用できていない」「結局現場が困っているまま」。
そんな声もよく耳にします。
DXを成功させるには、単なるシステム導入ではなく、現場の業務をどう変えるかという視点が欠かせません。
本記事では、総務DXでありがちな失敗パターンを5つ紹介し、それを回避するための実践的なコツを解説します。
総務DXでありがちな失敗パターン5選
① ツール導入が目的化している
多くの企業が「DXを進めなければ」と感じて、真っ先に着手するのがツール導入です。
しかし、現場の業務を深く分析することなく、話題のクラウドツールやRPAなどを入れても、結局”形だけのDX”になってしまいます。
たとえば、電子申請システムを導入したのに、並行して紙の申請書も運用し続けているケース。これは「新しいシステムを入れたからDXは進んでいる」と見せかける典型的な失敗です。
解決策:
まずは「業務の全体像」を洗い出すことが不可欠です。プロセスマップや業務棚卸しを行い、どの業務が手作業で、どこに時間がかかっているかを明確にしましょう。その上で、業務プロセスを変えることを前提にツールを選ぶ視点が必要です。
② 現場の声が反映されていない
総務部門は“裏方”と見なされがちで、経営や情報システム部門が主導するDXプロジェクトでは、現場の声が十分に反映されないことが多くあります。
たとえば、勤怠管理システムを刷新した結果、現場では「入力が面倒になった」「管理工数が逆に増えた」といった不満が噴出することがあります。これは、現場の実務フローを理解せずにシステム設計をしてしまったために起こる失敗の典型例です。
解決策:
現場を巻き込んだプロジェクト設計が重要です。現場の代表者を巻き込んだワーキンググループを立ち上げ、改善したい業務課題を共有し、ツール選定や要件定義に反映する仕組みを作りましょう。
③ エクセルの使いすぎがやめられない
申請書、報告書、集計作業などにエクセルを多用している企業は少なくありません。
エクセルは手軽で柔軟ですが、業務が属人化・複雑化しやすく、ファイルのバージョン管理やデータの整合性が問題になります。
実際、「誰が最後に更新したのかわからない」「マクロが壊れて使えなくなった」といったトラブルは日常茶飯事です。
また、ファイルが個人のローカルに保存されている場合、退職や異動時にノウハウが失われるリスクもあります。
解決策:
エクセルでの業務を全面的に否定するのではなく、まずは標準化・テンプレート化し、可視化された状態に整えましょう。その上で、反復的な業務やデータベース管理が必要な業務を中心に、ノーコードツールやSaaSに段階的に移行するのが現実的です。
④ 外注任せで「内製化」できていない
ITリテラシーに自信がない企業では、システム導入や業務改善を外部ベンダーに丸投げする傾向があります。
確かに短期的には効率的ですが、運用フェーズでの変更・改善が現場で行えず、「システムに業務を合わせるしかない」状況になってしまう危険があります。
また、仕様変更のたびにコストが発生し、結果として「使われないシステム」が残るケースもあります。
解決策:
ベンダーに任せきりにせず、総務部門自身が改善の主体者となる意識が必要です。市民開発(ノーコード/ローコード開発)ツールを使えば、現場担当者でもある程度のカスタマイズが可能です。小さな改善を内製化し、失敗を恐れず改善を繰り返す文化を育てることが、長期的なDXの成功に繋がります。
⑤ 成果が定量化されていない
「業務が楽になった気がする」「なんとなく便利になった」――これでは、DXの成果を社内で評価できません。結果的に、次のDX投資が却下される、担当者のモチベーションが下がる、などの悪循環に陥ります。
よくあるのは、上司から「どれだけ効果があったの?」と聞かれた際に、明確な数値が出せないケースです。これでは、継続的な予算確保や全社展開が難しくなります。
解決策:
DX施策の前後で比較可能なKPI(業務指標)を設定し、成果を見える化しましょう。
例:
- 稟議書処理にかかる平均日数が7日→2日に短縮
- 年間で使用する紙資料が1万枚→3000枚に削減
- ファイル検索時間が1日あたり30分→5分に短縮
このように、成果を「業務改善の数字」として社内に共有することで、DXの価値が理解されやすくなります。
成功に導くための5つのコツ
上記のような失敗を防ぐためには、以下の5つのコツを意識して進めることが重要です。
- 小さく始めて、早く回す(スモールスタート)
総務DXは、いきなり全社規模で行うのではなく、「小さく始める」ことが成功の鍵です。大掛かりなシステム導入や全社改革はコストも時間もかかり、失敗したときのダメージも大きくなります。
たとえば、「交通費精算」や「備品管理」「名刺発注」など、単純で改善効果が見えやすい業務から取り組むのが効果的です。小さな成功を積み重ねることで、社内の理解や協力も得やすくなります。
また、アジャイル的なアプローチで「改善→試行→フィードバック→再改善」のサイクルを短く回すことで、現場に適した運用が早期に実現できます。 - 現場主導・巻き込み型で進める
ツール導入や改善策を検討する前に、現在の業務がどのように行われているかを可視化することが重要です。業務フローを見える化することで、どこに非効率があるか、どこが属人化しているかが明らかになります。
特に総務は、申請・承認・管理といったプロセスが多く、紙・エクセル・メールといった異なる媒体が混在していることがほとんどです。こうした業務の流れを図示し、「誰が・いつ・何をしているか」を整理するだけでも、多くの課題が見えてきます。
無料の業務フローツール(Lucidchart、miro、Google Jamboard など)を活用するのも一手です。 - ツールより業務設計を重視する
総務DXを成功させるうえで、最も多く見落とされがちなのが「ツール導入が目的化してしまう」という罠です。便利そうなツールに飛びついても、肝心の業務設計があいまいなままでは、期待した効果を得ることはできません。
たとえば、ワークフロー管理ツールを導入しても、元の申請ルートや承認プロセスが複雑なままでは、非効率な業務をデジタル化しただけにすぎません。これは「紙から電子へ置き換えた」だけで、業務の本質的な改善とは言えません。
総務DXの目的は、業務の効率化・省力化・標準化であり、そのためにはまず「業務の設計そのものを見直す」ことが重要です。
業務設計は決して一人で完結できるものではありません。現場の担当者と一緒に、「どうすればもっと簡単になるか?」をディスカッションすることが重要です。特に総務部門は社内のハブ的な存在でもあるため、他部署との連携・巻き込みも意識した設計が求められます。 - ノーコード/市民開発をうまく活用する
IT人材が不足しがちな中小企業においては、「市民開発」という考え方が有効です。市民開発とは、専門のエンジニアでなくても業務アプリやツールを構築できるようにする取り組みです。
近年では、ノーコード・ローコードツール(例:kintone、Power Apps、Notionなど)を使えば、エンジニアでなくても業務アプリを作成できます。たとえば、エクセルで行っていた申請業務をkintoneで簡単な入力フォームに置き換えるだけでも、大きな効率化が可能です。
ポイントは、業務をよく知る現場が主導して改善できること。外注に頼らず、自社で素早く修正や改善ができるため、柔軟で継続的なDXが実現します。 - KPIを設けて定期的に振り返る
総務DXを軌道に乗せ、継続的に改善していくためには、“やりっぱなし”にしない仕組みが必要です。その鍵となるのが「KPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的にモニタリングすること」です。
DXはしばしば「成果が見えにくい」「費用対効果が説明しづらい」といった課題に直面します。特に総務部門は、営業のように直接的な売上貢献が見えづらいため、導入効果を実感しにくいという声も多くあります。
そのため、「なぜやるのか?」「どこまで進んでいるのか?」「効果は出ているのか?」を数値で可視化するKPIの存在は非常に重要です。これは、**社内に対する説明責任(レポーティング)**を果たす上でも大きな意味を持ちます。
KPIを設定したら終わりではありません。少なくとも月次または四半期ごとに振り返りの時間を設け、関係者と共有することで、課題の早期発見や次のアクションにつながります。
KPI運用の最終目的は、“数値の管理”ではなく、“改善の文化”を育てることです。小さく始めて、定期的にふりかえり、少しずつ成果を積み重ねていく。それが、総務部門におけるDXの土台をしっかりと作り上げていくポイントです。
よくある質問(Q&A形式)
総務DXに関してよくある質問とその回答をまとめました。
Q1:総務DX、何から始めればいいの?
→ まずは「どの業務にムダがあるのか?」を見える化することが第一歩です。
Q2:Excelを完全になくす必要はある?
→ すぐにゼロにする必要はありません。重要なのは「属人化・煩雑化している業務」から優先的に見直すことです。
Q3:市民開発はリスクがあるのでは?
→ ガバナンス体制(ルールや承認フロー)を整備すれば、十分に活用可能です。むしろ現場主導での改善が進みやすくなります。
現場目線で進めるDXこそが成功の鍵
DXは「ただのIT導入」ではありません。業務そのものを見直し、改善を重ねることで、現場に根付く“自走型”の変革が求められています。
大きな変化をいきなり狙うのではなく、小さな成功体験を積み上げながら、少しずつ改善していくことが成功への近道です。
「DXは難しそう」と感じている方こそ、まずは目の前の紙業務やExcel業務の見直しから始めてみてはいかがでしょうか。
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